世界中の登山家に愛され続けるトレッキングポールブランド「レキ(LEKI)」の始まりは、意外にも一人の難民が抱いた素朴な不満から生まれました。
1948年、戦後のドイツで何も持たない状態から出発したカール・レンハルトが、当時のスキーポールの品質に失望したことがすべてのきっかけ。
航空機製造のスペシャリストだった彼の技術力と、アウトドアへの純粋な愛情が融合したとき、業界に革命をもたらす企業が誕生したのです。75年という歳月を経て、レキは250以上の特許技術を保有する世界的ブランドへと成長しました。
この記事では、レキの創業物語から最新の環境技術まで、レキが築き上げてきた革新の歴史を詳しくご紹介します。
航空機技術とスキーへの情熱が生んだレキの創業物語
現在、世界中の登山家に愛されているレキ(LEKI)のトレッキングポール。その始まりは、1948年の戦後ドイツで、一人の男性が抱いた素朴な「不満」から生まれました。
創業者カール・レンハルトの航空機製造技術への深い知識と、スキーへの純粋な愛情が融合したとき、アウトドア業界に革命をもたらす企業が誕生したのです。
一人の難民が抱いた既存ポールへの「不満」がすべての始まり
1946年、現在のチェコ共和国西部から逃れてきたカール・レンハルト一家は、文字通り何も持たない状態でドイツに到着しました。最初の夜を過ごしたのは、デッティンゲンのグライダー格納庫という厳しい現実でした。
しかし、カールには他の難民とは決定的に違う強みがありました。それは、航空機製造のスペシャリストとしての豊富な技術と経験です。
情熱的なスキーヤーでもあったカールは、シュヴァーベン・アルプの斜面で冬を過ごし、夏はチロル・アルプスで時間を過ごしていました。しかし、当時のスキーポールの品質には深く失望していたのです。特に困っていたのは次のような問題でした。
この個人的な不満こそが、後にアウトドア業界を変革する革新の出発点となったのです。
カール・レンハルトの航空機製造技術がアウトドア界を変えた瞬間
1948年、カールと妻ゲルトルートは「Karl Lenhart Plastik + Metall」という木材加工会社をバーデン・ヴュルテンベルク州デッティンゲン・ウンター・テックで創業しました。最初はパン屋や肉屋向けの木製文字看板を製造する小さな事業でしたが、カールの心には別の大きな夢が宿っていました。
1960年代初頭、カールは航空機製造で培った精密技術を活用し、画期的な発明を成し遂げます。プラスチック射出成形による初の先端・バスケットシステム「LEKIFIX」の開発です。このねじ込み式バスケットシステムは、現在でも世界標準として使用され続けています。
さらに、短期間のうちに次々と技術革新を実現していきました。
このような革新は、航空機で使用される軽量で高強度な素材と精密加工技術をアウトドア用品に応用した結果でした。
革製バスケットが切れる度に芽生えた「もっと良いものを作りたい」想い
ブランド名「LEKI」の由来も、カールの想いが込められた温かいエピソードがあります。これは創業者の姓「LEnhart」の最初の2文字と、本社所在地「KIrchheim」の最初の2文字を組み合わせたもので、カールが新天地ドイツへの愛着を示したものでした。
スキー場で革製のバスケットストラップが切れる度に、カールは「もっと良いものを作れるはずだ」という想いを強くしていきました。彼の発明への情熱は、個人的な体験から生まれた具体的な問題解決への願いだったのです。航空機製造で学んだ「故障しない、信頼できる部品」の重要性を、スキーポールにも応用したいと考えていました。
この時代、多くの人がバスケットの故障に悩まされていましたが、カールだけが解決策を見つけ出しました。彼が実現した画期的な改善点を見てみましょう。
カールの「不満」から始まった小さな改善への取り組みが、やがて世界中のスキーヤーを満足させる革新的な製品へと発展していったのです。
天才的発想力で世界を変えたクラウス・レンハルトという男
創業者カールの想いを受け継ぎ、レキを世界的ブランドへと押し上げたのは、息子のクラウス・レンハルト(1955-2012)でした。彼の天才的な発想力と製品への執着は、レストランでの食事中にも発揮され、数々の伝説的なエピソードを生み出しています。
特に有名なのが、ラインホルト・メスナーとの出会いから生まれた調整可能トレッキングポール「マカル」の開発物語です。
29歳で会社を継いだ息子がレキを世界的ブランドに押し上げた
1984年、わずか29歳のクラウス・レンハルトが父親から会社の経営を引き継いだとき、従業員はたった11人の小さな家族企業でした。しかし、クラウスには他の経営者とは桁違いの製品開発への情熱と、革新的なアイデアを次々と生み出す天才的な発想力がありました。彼の手によって生み出された特許の数は、なんと250以上にも上ります。
クラウスの創造プロセスは、まさに伝説的と呼ぶにふさわしいものでした。製品への執着は周囲の人々を驚かせるほどで、その情熱は絶え間なく続いていました。彼が取り組んだ主な革新的な開発項目を見てみましょう。
わずか30年ほどの間に、クラウスは小さな町工場を世界的なテクノロジーリーダーへと変貌させる偉業を成し遂げたのです。
レストランの紙ナプキンにスケッチする製品開発の伝説
クラウスの製品開発に対する情熱は、まさに24時間365日続くものでした。最も有名なエピソードの一つが、レストランでの食事中に突然アイデアがひらめき、手近にあった紙ナプキンに新しいデザインをスケッチする姿です。このような光景は日常茶飯事で、同席した人々は彼の創造力の豊かさに驚かされていました。
クラウスは「製品に取り憑かれた男」とも称され、昼夜を問わず製品改良のことを考え続けていました。彼の開発スタイルには、いくつかの特徴的な面がありました。突然のひらめきを大切にし、思いついたアイデアをすぐに形にする行動力がありました。また、既存の常識にとらわれない発想で、業界の固定観念を打ち破る革新的な解決策を見つけ出していました。
彼の革新的な思考プロセスは、次のような特徴を持っていました。
エベレスト無酸素登頂を支えた「マカル」誕生の舞台裏
1974年、クラウスと伝説的な登山家ラインホルト・メスナーとの運命的な出会いから、世界初の調整可能トレッキングポール「マカル」が誕生しました。メスナーから
という何気ない一言を聞いたクラウスは、すぐにこのアイデアに取り組み始めます。当時としては「クレイジーなアイデア」とも言われた発想でした。
多くの試行錯誤を重ねて完成した「マカル」は、4年後の1978年5月8日に歴史的な瞬間を迎えることになります。ラインホルト・メスナーとペーター・ハーベラーが、人類史上初のエベレスト無酸素登頂という偉業を達成した際に、この「マカル」が使用されたのです。この出来事は、レキの技術力を世界に証明する決定的な瞬間となりました。
マカルの開発において、クラウスが重視したポイントを振り返ってみましょう。
マカルの成功により、レキは単なる道具メーカーから、冒険家たちの夢を支える信頼できるパートナーとしての地位を確立したのです。
レキが誇る250の特許技術はなぜ他社に真似できないのか?
現在、レキが保有する特許技術の数は250以上にも及び、この圧倒的な技術力こそが他社との決定的な差を生み出しています。単なる数の多さではなく、それぞれの技術が持つ革新性と実用性の高さが、レキを業界のトップブランドとして君臨させ続けている理由なのです。
特にトリガーシステム、スピードロック、アエルゴンエアグリップといった代表的な技術は、ユーザーの安全性と快適性を飛躍的に向上させました。
トリガーシステムが革命的と呼ばれる本当の理由
1998年にクラウス・レンハルトが開発したトリガーシステムは、まさにポール業界に革命をもたらした画期的な発明です。このシステムの最大の特徴は、ポールとグローブを一体化することで、従来のストラップの概念を完全に覆したことにあります。グローブに設けられた小さなループを、グリップ上部のフックに「カチッ」と嵌め込むだけで、ポールと手がダイレクトに連結される仕組みです。
この革新的なシステムがもたらした恩恵は計り知れません。パワーロスが大幅に減少し、推進力を効率的にポールに伝えることが可能になりました。しかし、最も重要なのは安全性の向上です。転倒などでポールに約19kgの負荷がかかると、ストラップがグリップから自動的に外れるセーフティリリース機能が搭載されています。
このシステムの革新的な特徴を詳しく見てみましょう。
スピードロックとアエルゴンエアグリップの秘められた工夫
レキの技術力を象徴するもう一つの革新が、2010年に登場したスピードロックシステムです。従来のスクリュー式ロックとは一線を画す外部レバーロック方式により、グローブを装着したままでも素早く簡単に長さ調整ができるようになりました。スピードロックシステムは、シャフト径全体を均等に締め付ける構造により、一点集中の負荷を避け、非常に高い固定力を発揮します。
アエルゴンエアグリップもまた、レキならではの人間工学に基づいた傑作です。中空コア技術により30%の軽量化を実現しながら、手首を自然なニュートラルポジションに保つ+8°の傾斜設計が施されています。この絶妙な角度設定により、最適なポール誘導と効率的な力の伝達をサポートしているのです。
これらの技術に込められた細やかな配慮をご紹介します。
ヨーロッパ製造にこだわり続けるレキの品質哲学
多くの競合他社がコスト削減のためアジア生産に移行する中、レキは敢えてヨーロッパ製造を貫いています。この決断の背景には、単なる製造コストを超えた深い品質哲学があります。チェコ共和国タホフにある自社工場は「世界最大のポール製造工房」と呼ばれ、垂直統合による完全な品質管理を実現しているのです。
レキが自社製造にこだわる理由は明確です。すべてのプロセスを自社で管理することで、製造の透明性を保ち、一貫した高品質を維持できるからです。
また、特別に開発された試験機械を用いて、開発チームが100%満足するまで徹底的にテストを繰り返しています。この妥協のない姿勢こそが、レキ製品の信頼性を支えているのです。
ヨーロッパ製造がもたらす具体的なメリットを見てみましょう。
この品質哲学により、レキは70年以上にわたって世界中のアウトドア愛好家から絶大な信頼を寄せられ続けているのです。
世界最高峰から街歩きまで信頼されるレキの実力
レキの真の実力は、エベレストのような極限の環境から日常の街歩きまで、あらゆるシーンで発揮される信頼性の高さにあります。世界中で1000人を超えるトップアスリートがレキを愛用し、その卓越したパフォーマンスを実証し続けています。
また、日本をはじめとする各国の一般ユーザーからも、その使い心地の良さや機能性について数多くの高評価を得ているのです。
プロ登山家たちがレキを選び続ける決定的な理由とは?
プロの登山家や冒険家たちがレキを選ぶ理由は、極限状況でも絶対に裏切らない信頼性にあります。1978年のラインホルト・メスナーによるエベレスト無酸素登頂から始まり、現在に至るまで数々の歴史的快挙を支え続けてきた実績が、その証明となっています。プロたちは道具の不具合が生命に直結する環境で活動するため、妥協は一切許されません。
レキが提供する製品の信頼性は、厳格なテスト基準によって支えられています。ドイツの第三者認証機関TUV SUDによる認証を受けたロッキングシステムは、140kgもの荷重に耐える極めて高い保持力を誇ります。また、トリガーシステムの安全性能も、転倒時の怪我を防ぐ重要な機能として高く評価されています。
プロが重視するレキの特徴を具体的に見てみましょう。
これらの要素が組み合わさることで、プロフェッショナルたちの命を預けるに値する道具として信頼を勝ち得ているのです。
日本の登山者からも絶賛される使い心地の良さ
日本の登山者からも、レキ製品の品質と機能性に対して数多くの肯定的な評価が寄せられています。特に高く評価されているのが、エルゴングリップやアエルゴンエアグリップの握りやすさです。長時間握っていても疲れにくく、手の小さな日本人にもしっかりフィットする設計が多くのユーザーに愛されているのです。
スピードロックシステムの操作性の良さも、日本のユーザーから絶賛されているポイントです。グローブをしたままでも確実に固定・解除できる点は、四季を通じて様々な環境で活動する日本の登山者にとって大きなメリットとなっています。
また、アンチショックシステムによる衝撃吸収効果についても、長距離歩行時の膝や手首への負担軽減を実感する声が多く聞かれます。
日本のユーザーが特に評価しているトレッキングポールの機能をご紹介します。
トレイルランニングからノルディックウォーキングまで幅広い活躍
レキの多様性は、トレッキングだけでなく様々なアウトドアアクティビティで発揮されています。
近年人気が高まっているトレイルランニングでは、「Ultratrail FX.One」シリーズが注目を集めています。極限まで軽量化されたカーボンシャフトと、素早く確実に展開・収納できる折りたたみ機構により、レース中の貴重な時間を節約できると好評です。
ノルディックウォーキング分野では、2002年から専用ポールの開発に取り組んできた実績があります。全身運動としての効果を最大化するため、トリガーシャークグリップシステムなどの専用技術を搭載したモデルを展開しています。
日常的な健康づくりから本格的なフィットネスまで、幅広いニーズに対応できる製品ラインナップを誇っています。各アクティビティに最適化されたレキの特徴を見てみましょう。
それぞれの活動に最適化された技術の組み合わせにより、レキは真の意味で「オールラウンド」なブランドとしての地位を確立しているのです。
持続可能な未来へ向けたレキの新たな挑戦
技術革新を追求し続けるレキが、近年特に力を入れているのが持続可能性への取り組みです。創業から75年を経た今、レキは単なる高性能な製品作りを超えて、地球環境と未来の世代への責任を果たそうとしています。
世界初のオーガニック麻製ポールの開発から、自然エネルギーを活用した生産体制まで、レキの環境への配慮は多岐にわたり、家族経営ならではの長期的視点に基づいた取り組みとなっています。
世界初のオーガニック麻製ポールが示すレキの先進性
2023年、レキは業界に衝撃を与える革新的な製品を発表しました。それが世界初のオーガニック麻製トレッキングポール「Hemp One Vario」です。
この画期的な製品は、ISPOアワードを受賞するなど、その先進性が高く評価されています。麻(ヘンプ)という素材の選択は、単なる話題作りではなく、深い環境配慮に基づいた戦略的な決断でした。
ヘンプ繊維は驚くべき特性を持っています。スチールの2倍もの強度を誇りながら、栽培に必要な水の量が他の繊維作物よりもはるかに少なく、土壌を改良する効果まであるのです。
「Hemp One Vario」では、グリップコアやバスケットの素材の25%にヘンプ繊維を使用し、ストラップにはリネンを採用しています。この革新的な素材が持つ環境面でのメリットを詳しく見てみましょう。
太陽光発電で107%自給を実現する環境への取り組み
レキの環境への取り組みは、製品開発だけでなく製造プロセス全体に及んでいます。特に注目すべきは、ドイツのキルヒハイム拠点で2005年から稼働している太陽光発電システムです。レキは年間を通じて総エネルギー消費量を上回る107%の電力を自給し、余剰分は電力網に供給しています。その結果、年間33トン以上のCO2排出量削減を実現しているのです。
チェコ共和国タホフの自社工場でも、先進的な環境技術が導入されています。生産工程で発生する熱エネルギーを回収し、工場の暖房などに再利用するシステムにより、エネルギー消費を大幅に抑制しています。
排気フィルターシステムには最新のインテリジェント制御技術が用いられ、抽出空気の熱エネルギーを回収・再利用することで、特に寒冷期において最大50%ものエネルギー節約を達成しています。
レキが実現している具体的な環境改善効果をご紹介します。
3世代に受け継がれる家族経営の温かさと革新の精神
レキの持続可能性への取り組みを支えているのは、3世代にわたって受け継がれてきた家族経営の価値観です。創業者カール・レンハルト、息子のクラウス、そして現在の第3世代であるフリーデリケとマルクス・レンハルトに至るまで、一貫して「責任」という価値観が企業活動の根幹を支えてきました。
短期的な利益を追求する上場企業とは異なり、長期的な視点で事業を展開できるのは、家族経営ならではの強みです。
故ヴァルトラウド・レンハルトが残した「古いポールを修理するのは、それが正しいことだから」という言葉は、レキの持続可能性に対する姿勢を象徴しています。使い捨て文化に対するアンチテーゼとして、製品の耐久性を高め、修理サービスを提供することで、愛着のある道具を長く使い続ける文化を支援しているのです。
家族経営がもたらす持続可能性への取り組みをまとめてみましょう。
レキの持続可能性は単なる環境対策ではなく、創業以来の企業理念を現代的に発展させた自然な取り組みなのです。
【まとめ】レキ(LEKI)が歩んできた歴史
1948年、一人の難民カール・レンハルトが抱いた既存ポールへの不満から始まったレキの物語は、75年という歳月を経て世界最高峰のポールブランドへと発展しました。
航空機製造技術をアウトドア用品に応用した革新的な発想、息子クラウスの天才的な開発力によって生み出された250以上の特許技術、そして3世代にわたって受け継がれる家族経営の温かさ。これらすべてが融合して、エベレストから街歩きまで信頼される確かな品質を築き上げています。
現在では持続可能な未来への取り組みも加わり、レキは単なる道具メーカーを超えた存在となりました。創業者の「もっと良いものを作りたい」という純粋な想いが、今もなお世界中のアウトドア愛好家の心を捉え続けているのです。
レキで人気のトレッキングポール
レキで人気のトレッキングポールをピックアップして紹介します。
マカルーFXカーボン
レキのマカルーFXカーボンは、フルカーボンシャフトで2本セット約508gという軽量性が魅力の三段折りたたみ式トレッキングポール。
- 収納時40cmのコンパクトサイズでバックパック内収納が可能
- 人間工学に基づいたエルゴンエアグリップで長時間使用も快適
- スピードロック2プラスシステムで片手でも簡単に長さ調整
- エクスターナル・ロッキングデバイスでワンタッチ折りたたみ
などが高評価の理由。公共交通機関を使った登山や長時間の登山で疲労軽減効果を発揮する、中級者以上にもおすすめできる高性能モデルです。